2025年度理事長所信

第71代理事長 辻尾 洋人

はじめに

戦後の焼け野原からスタートしたJCという組織。初期の事業内容で私が聞いて印象に残っているのは満州に取り残された家族を日本に連れ戻すために民間船をチャーターする事業だ。政府は公式に船を出せない状況だったという。まさに民間団体であるJCだからこそできた、世の中のためになる素晴らしい事業だ。現代に同じような価値がある事業を生み出せるのだろうか。時代背景が変わり過ぎ、そんな使命感溢れる事業は行えないのではないか。そんな疑問が浮かぶのは至極真っ当だ。初期の事業の内容を知ってから考えに考え抜いた。私の結論はこうだ。今の時代に、我々にしかできない使命感溢れる事業を構築することは可能である。しかし世に溢れる課題は複雑化し、人の生死に関わる課題さえも見えづらい状況にある。自分たちが今何をすべきなのか考えるには高度な知識か想像力が求められる。私は複雑化した社会で、シンプルな発想から導き出せる方程式は誰のために何ができるだと考える。

義理人情。義理を受けた人に恩を返すという意味でよく使われる。義理を返すのは当然のこと。まずあなたが与えられる人になろう。いつの世もJC運動の根本は変わらないはずだ。いつの世も人が真ん中にあるはずだ。

 

 

70周年を迎えて

2025年に特別な役割があるとするならば、70年という時間の長さを振り返る機会の創出です。その振り返りはかつてJC運動に奮闘された先人たちへの感謝はもちろんのこと、市民の方々へ、そして関連するLOMやNOM、行政や企業の皆さまへの感謝が欠かせません。70年前から国のために、まちのために、人のためにと多くのJCメンバーが集い、前身である堺JCが発足し、今も昔と変わらぬ想いでJC運動を展開し、まちの課題を解決してくれたおかげで、わがまちは現在の姿をしています。当たり前に過ごしている平和なまちは先人たちの貢献から成り立っています。平和というのは貢献を忘れていきやすいものです。例えば70年前に行った事業はなんだったのか、日本中が危機的状況にあったとき当時のJCメンバーはどう動いていたのか。市民への認知度を考えると伝わっているとは言い難い現状もあります。その当時も間違いなくJCメンバーは明るい豊かな社会を目指していました。わがまちのため、日本社会のために邁進していたこと。まちをどのように変えたのか。守ったのか。その歴史を70周年の契機に現役メンバーである我々が紡いでいき、JCの存在感を改めて示すことで、我々だけで運動を起こすのではない、ステークホルダー皆で未来を変革していく社会を構築してまいります。

 

総務

我々JCメンバーが行う総会、正副理事長常任理事会議、理事会議は堺市・高石市の未来を考える市民の未来を背負っています。メンバー全員がその重責を認識したうえで臨むことで、発言の一つひとつに重みが増し、より高次元な会議を進めることができます。しかしメンバーのなかには1年間を通じて1度も発言しない者もいます。つまり全員が想いをぶつけ合っているかと問われるとそうではない現実があります。そんな中、2025年度に常任理事会構成メンバーという重責を受諾してくれた者たちがいます。一人ひとりに想いがあり、この組織からまちを変えていこうという共通認識を持っています。すべての堺高石JCメンバーが70年前に堺JCを発足したメンバーのように熱い議論を交わし、わがまちの発展と成長に貢献していける基盤を構築しなければなりません。

 

広報

堺高石JCの市民に対する発信は強い影響力を持つべきであると考えます。情報の発信源の多様化、そしてICTの進化は目まぐるしく、発信者も受信者も様々な選択肢がある時代です。堺高石JCもHPやSNSを通じて情報を発信しておりますが、市民へその想いを届け切れていません。しかし事業にも堺高石JCのSNSをみて来られる方も増えており、情報発信の光明も見えつつあります。インターネットを通じた情報発信方法のトレンドは移り変わりが激しいものですが、青年経済人である我々は時代の変化に適応し、情報発信の分野においても先導者となる必要があります。

 

防災

満州への船を出す事業の話を聞いて真っ先に思い浮かんだのは被災地支援でした。1月1日に起きた能登半島地震において私の友人も被災し、家の前の写真だ、と半分なくなった道路の写真も送られてきました。2024年度に能登半島地震支援募金を行った際には市民から多くの募金が集まり、被災地の様子に心を痛めながら何かしてあげたいと考えている方々が多数存在することがわかりました。被災地復興はみんなの願いです。しかし9月24日大雨により被災地に更なる被害が出てしまうなど不安定な状態が続いており、復興の目途はたっていません。JCは1月1日に発生した地震に対して翌日支援物質を届けました。わがまちも被災者への市営住宅の無償提供など様々な支援活動を行っております。やってもらったからやるのではありません。まず自分から誰かのために行動を起こすことが奉仕の精神です。市民が被災地支援を当たり前に行い、取り組んでいける奉仕の精神に溢れた社会を構築していく必要があります。

 

 

経済

私たちは明るい豊かな社会を作る団体です。政令指定都市を擁するわがまちは地域の中小企業をけん引するリーダーとして物質的な豊かさにもあふれる必要があります。

現状、堺市の市内総生産は上昇傾向にありますが、実質経済成長率が右肩上がりとは行かず、安定しておりません。その他様々な経済指標でも全国平均を下回っており、経済成長期を迎えているまちではないと言えます。わがまち特有の事象ではありませんが、不安定の原因として考えられるのは時代の変化による主産業の変化であり、課題として挙げられるのは変化に適応する能力の乏しさです。そんな中、わがまちを中心に発展した大企業も複数存在し、市の支援を受けるベンチャー企業も60社を超えるなど変化に適応できている企業も多数存在します。これは堺市・高石市が持つまちのポテンシャルを持ってすれば自立した経済都市として発展することが可能であることを示しています。「物の始まりみな堺」と言われるほど、わがまちは鉄砲や包丁で栄え、紡績で栄え、臨海興業団地で栄え、国内外の競争に勝ち残ってきた歴史があります。

先人の意思を受け継ぐ私たちは、常に経済情報にアンテナを巡らせ、市民とともに学び続け、堺市・高石市の経済へ寄与する必要があります。

 

国際

わがまちは市内消費や労働力が減少しており、新たな市場拡大による経済成長には海外との連携は必須だと考えます。現状幸いにも大阪府は外国人観光客が増加しております。しかしわがまちのホテル宿泊者数はほぼ横ばいで推移していることから、堺市・高石市を目的とした観光はほとんどなく、まちの魅力が伝わっておりません。2025年には大阪・関西万博が開催されます。万博は最先端技術の博覧会だけではなく、地域経済の活性化、国内外の交流を促進する意味合いもあります。予想来阪外国人は280万人と、多くの外国人がわがまちへ訪れるチャンスがあり、堺市・高石市の存在感を示すことも可能です。私たちはこの機会にわがまちに今後のインバウンド需要の増加を狙い、国際社会のなかで堺市・高石市の立ち位置を確立する必要があります。

 

 

拡大

私自身、JCに育ててもらったと組織に大きな恩を感じております。LOMで役職をいただき、得た経験は厳しくも成長につながるかけがえのないものでした。入会当時と比較しても世のため人のためを想えるようになったと感じております。人生を変えてくれた成長の機会であり、やはりJCは人づくりの組織であると考えております。青年の成長と発展の機会、その第一歩が拡大運動です。現在堺高石JCは全国大会拡大AWARDS111名以上の部でグランプリを取るなど、会員拡大に成功しているLOMと言えるでしょう。したがって我々は日本中のLOMから拡大のお手本という目線が集まります。しかし、拡大の、メンバーの人数だけが重要ではありません。自分たちで掲げた事業目標が未達成であることや長期在籍メンバーの参加率低下、また拡大したメンバーが一度も来ないなどメンバーの意識に関する課題もまだまだあります。我々はさらに日本中のメンバー増加の一助となるため、拡大に成功し続けていくことはもちろんのこと、所属してくれた青年経済人の成長と発展により一層寄与する団体になる必要があります。

 

 

研修

私はJCの組織は軍隊のようなガバナンスと地域の特性に合った柔軟性が求められると考えております。それぞれが会社でのリーダーである我々はJCで組織を学ぶことができます。もちろん各々が培ってきた素晴らしい組織運営のノウハウがあるかと思いますが、智慧を合わせることで良い部分を学び、悪い部分を正していくことができます。しかし、堺高石JCの現状は例会出席率も低く、組織力があるとは言い難い状態が続いております。そんな中、近年の改善取り組み方法として新入会員による委員会の逆ドラフトや毎週委員会といった取り組みを行いました。これはJCという組織、そして委員会の特色を考え、自ら道を選ぶことを学び、組織やメンバーに対して帰属意識を持ってもらうことを目指すものです。以前新入会員は拡大したメンバーの委員会に所属し、そのキャリアを過ごしました。私たちはこのすべての取り組みから良い点、悪い点を抽出し、変化していくことで組織のガバナンスを強化していかなければなりません。ひとのために無償で行動できる組織を目指して。

 

 

well-being

堺市・高石市は現状市民の28.3%が高齢者であり、高齢社会が展開されております。世界に先駆けている我々の責務として未来に訪れるさらなる超高齢社会における課題解決の先進モデル都市を構築する必要があると考えています。この長寿社会は素晴らしい事ですが、このままただただ高齢者が増え続けていくだけでは、生産性の低下による経済の低迷、生き甲斐が低下していきます。現状のまま高齢化が加速すると、わがまちの生産性は減少し続け、経済活動の崩壊を招きかねません。厚生労働省では現在、寿命だけでなく、健康寿命を延ばし生き甲斐を創出し、well-beingを高めることが推進されています。これは高齢者が誰かに支えてもらうのではなく、生涯活躍できる社会を目指すものです。我が国、わがまちの先進分野である高齢社会対策を推進し、住み暮らすすべての人々がwell-beingな状態で住み暮らし続けられる持続可能な社会を構築する必要があります。

 

 

 

こども教育

こども家庭庁が制定した“こども大綱の推進”に記載されている“こどもまんなか社会”の具体案として掲げられている「夢や希望を叶えるために、希望と意欲に応じて、のびのびとチャレンジでき、将来を切り開くことができる社会」を構築することが今の堺市・高石市に求められていると考えております。現代社会は複雑化しており、こどもたちが抱える課題も多様化しております。一つの課題を解決するだけでは根本的な変化は見込めないこともあるでしょう。旧体制とダイバーシティの過渡期であり、こどもたちは自らの力で考え抜く力が求められています。一方でこどもたちは、新しい流行を生み出すことも多々あるように決して弱い存在ではなく、我々大人にとっても重要で巨大なパワーを持っています。わんぱく相撲やJCサッカーなど、こどもたちの成長に携わることはこどもたちの考えを知り、未来社会を構築する良い機会であり、我々にとっても絶好の成長の機会です。我々JCはこどもたちの可能性を最大限引き出すきっかけを与えることができる団体だと考えております。2025年度、今を生きる我々だからこそできるこどもたちのための機会を創出し、こどもたちにフォーカスが当たる社会を実現していく必要があります。

 

 

 

 

 

 

長期運動指針

堺高石JCをより良くするために世界を知る必要があると私は考えました。昨年金沢JCがMost Outstanding Local Organization(最優秀会員会議所)を受賞したので様々取材させていただいたところ、事業内容にまず驚かされました。宇宙産業、高齢化社会、デジタル変革への適応事業など時代の最先端をいく事業を展開し、その一つひとつクオリティも素晴らしいものでした。しかしそれ以上に私が驚いたのは例会出席率でした。100%も頻繁にあり、90%を切ることはないということでさらに驚きました。堺高石JCは多い時で50~60%です。その差はJCに対する意識の差で、ここを変革させる必要があります。誰かのためにした事業は感動を生み、感動は動員を生み、動員がまた良い事業を生み出す。動員と事業の質向上の両輪を進めなければいけないが、まず我々にできることはだれかのために行う事業の構築だと考えます。金沢JCを良き目標とし、それを超えていくために、まずは10年間でMost Outstanding Local Organization(最優秀会員会議所)の受賞を目標としてLOMとともにメンバーが成長し、まちを変えていく。大事なことは言語化し、皆で共通認識を持ち、一体感のあるLOMを構築してまいります。

 

最後に

健全な多重人格という言葉があります。これは家庭で見せる顔、友人に見せる顔、仕事で見せる顔、JCで見せる顔、など場面に応じて見せる顔が変わるという事です。この数が多ければ多いほど、人は幸せに生きているというデータがあります。すべての人々がたくさんの居場所を持てる世界が幸せな未来へつながると考えております。自分の居場所はもちろん、人の居場所を作ってこそのJCです。いつも誰かのためにを自分たちから率先する組織であるJCを紡いでいくことが歴史の中の1ページである我々の責務であると考えます。